前回予告した通り、新本格シリーズの第2弾として有栖川有栖の「双頭の悪魔」を読んでみました。英都大学の推理小説研究会に所属する学生のアリスが主人公となる「学生編」と呼ばれるシリーズの3作目で、作者の作品の中でも傑作との声が名高い本格推理長編です。文庫本でありながらこんなにぶ厚い本はあまり読んだことがなかったので、大丈夫かな?と思ったのですが、自分でも驚くほどあっという間に読み終えてしまいました。次々に起こる事件や推理の数々に続きが気になってしまう上に、好感の持てる主人公たちや登場人物たちの描写に引き込まれていく読み物的な面白さも充分です。
推理作家のアリスが活躍する「作家編」での探偵・火村助教授に代わって、こちらで名探偵を演じるのは推理小説研究会の部長を務める先輩の江神二郎さんです。四国の山奥の村に乗り込んだ推理研のメンバーが、嵐で川の両岸に離れ離れになってしまい、主人公のアリスと同級生のマリアが代わる代わる語り手となることで形で物語が進行していきます。そのため全編軽い調子の「作家編」と比べると、多感な高校生の主観を織り交ぜた青春小説の趣が強く、シリーズを通しての伏線なども多いので、「学生編」の方が好きという固定ファンも多いようですね。
何と言っても途中3回も挟まれる「読者への挑戦」で提示される、ゲーム感覚の謎解きがすごいです。私も一応それなりに考えてはみたのですが、作中で描かれる登場人物の行動の一つ一つ、寸分の隙もないアリバイ検証や条件の精査の末に「犯人は一人しかあり得ない」という結論に行く着く論理の積み上げには感嘆させられてしまいました。普通の小説だったら作者のきまぐれと思って何気なく読み飛ばしてしまうような、ちょっとしたセリフの端々にも漏れなくヒントが含まれています。「そこまで細かくチェックしないとダメか~」と思うと同時に、ちゃんと考えれば確かに分かりそうなフェアなルール設定には、すっかり味を占めてしまいそうです。(※こういう究極の犯人探しのことを「フーダニット」と言うそうです)
論理を積み重ねれば、唯一無二の「犯人」と「トリック」が浮かび上がってくるのですが、「動機」だけは全く分からない。この瞬間が一番怖いですね・・。「双頭の悪魔」という何だか怖いタイトルの意味も、最後まで読めばちゃんと分かるようになっているのですが、この言葉を暗示させるモチーフは作中に何度か登場しています。
- 暗闇の中を逆立ち歩きしている舞踏家の小菱の両足が、双頭の獣の首のように見えた
- 村に伝わる伝説の龍が、二つの首を持っていたために2人の生け贄を要求していた
- 殺人事件の現場となった鍾乳洞の経路が、双頭の龍のような形をしていた
- 川を挟んだ2つの村で、同時に2つの殺人事件が発生する
この辺も踏まえて犯人像を推理したり、想像を働かせたりしたのですが、やっぱりなかなか当たらないですね・・。登場人物たちはいずれも表情豊かなユニークな人たちばかりなので、一体誰が凶悪な犯行を犯した「悪魔」なのかとドキドキしながら読み進んでいました。でもトリックや動機といった個々のアイデア以上に、「こう来るか」という感じで立て続けに事件が起こったり、ラストで畳み掛けるように披露される名推理と犯人の応酬など、場を盛り上げるプロットの妙味こそがこの作者の持ち味なのかな、と思いました。
続いて綾辻行人の「時計館の殺人」と有栖川有栖の「46番目の密室」を読んでるところです。ついでにPalmのブンコビューアでコナン・ドイルの「シャーロックホームズの冒険」も併読中です。古典ミステリの名作となれば、電子書籍でも品揃えが充実しているので、しばらくは不自由しなさそうですね。だんだん推理小説中毒みたいな状態になりつつありますが・・。
風のまにまに号

双頭の悪魔はシリーズ3作目だったんですね。
最近記憶が朦朧としていて、月光ゲームは思い出せたのですが孤島パズルを忘れていました。
フーダニット系といえば(有栖川氏がまさに倣っている)エラリー・クイーンだと思いますが、昨今の仕掛けの多いミステリを読んでから古典に戻ると、「ん?謎はこれだけ?」という拍子抜けな印象を持ってしまう可能性もあるかもしれません(ホームズも、トリックによっては現代ではかなり疑問で笑えるものも含まれてますし)。
でも「エジプト十字架の謎」なんかは、仕掛けられたトリックがシンプルなのにズバッと決まっていて、楽しい作品でしたね~。ああいう思いをまた味わいたいと思いつつ、ズルズルと買い続ける毎日です。