蝶々がはばたく

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book_chouchou.jpg新潟で震災が起きた翌日、たまたま立ち寄った書店で有栖川有栖の短編シリーズの2作目を読みたいと思って「ブラジル蝶の謎」を手に取ったのですが、近くのカフェでパラパラと読んでいたら、この本の巻末に収録されている「蝶々がはばたく」という作品が、神戸の大震災の直後に書かれた地震にまつわる作品だということが分かって、不思議なシンクロニシティを感じました。
関西在住の作者は、神戸の震災当時に自宅マンションのバルコニーから黒煙が立ち昇る被災地の光景を目撃していたそうで、この作品にも強い追悼の意と、メッセージ性が辺められていると思われます。そうは言ってもあくまで推理小説なので、地震をテーマに扱うなんて不謹慎だ、と非難されかねないこの作品の発表を作者は相当に躊躇されたそうです。私自身は実際読んでみて、そんな悪い意図は感じなかったし、読み終わった後にさわやかな「希望」を感じさせてくれるこの作品が気に入ったので、私もあえて自粛せずにこの場で紹介しておきたいと思います。

犯罪学者の火村と推理作家のアリスを主人公とするシリーズの中でも異色のこの作品は、推理小説でありながら殺人事件は起こらないし、悪事を働いた犯人を問いつめる場面も出て来ません。ふと思いついて北陸に旅行に出かけることになったアリスと火村が、列車の中で偶然出会った初老の男性から聞いた奇妙な昔話を元に、ああでもないこうでもないと謎解きに思いをめぐらす、回想的というか「机上の推理」というか、一風変わった構成になっています。(このように探偵が現場に赴くことなく事件を解決するタイプのお話を、アームチェア・ディテクティブと呼ぶそうです)
車中で一緒になった男性の話は、35年前の全共闘とジャズ喫茶が全盛の頃のノスタルジックな思い出話に始まり、やがてその当時に起きた2人の友人の「失踪」事件へとミステリアスな方向に急展開します。ジャズ喫茶の常連仲間で伊豆の旅館へ小旅行へ繰り出し、楽しく過ごした2日目の朝に忽然と姿を消してしまった2人。周囲はぬかるんだ地面と砂浜に囲まれているのに、足跡ひとつ残さず消失してしまったので、その状況だけ考えると「密室事件」ということになってしまいます。
アリスが話の結末を聞く前に別れてしまったために、「謎」として読者に提示されてしまうのですが、実際の当事者たちにとっては解決済みの昔話に過ぎないというところがまた面白いです。この話を伝え聞いただけで全てを解き明かしてしまう火村の推理もすごいですが、「バタフライ現象」の蝶々になぞらえて、人知を超えた自然の脅威の最中に一人一人の人間の営みを思い描いてみせる、その想像力こそがこの作品の持ち味ではないでしょうか?
神戸の被災地に向けて祈りを捧げた「蝶々よはばたけ」という作者の言葉を、ここで繰り返したいと思います。新潟で被害に遭われた方々にとっては今だ「そこにある危機」という感じでまだまだ大変だと思いますが、どうぞお大事に・・。

有栖川有栖「ブラジル蝶の謎」

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多摩川のほとりでのんびり暮らす3人家族の日常と果てなき好奇心を綴ったブログです。

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