推理作家のアリスと犯罪学者・火村が登場する有栖川有栖の「作家シリーズ」長編一作目です。雪山の別荘でクリスマス・パーティが開かれた晩に殺人事件が起こってしまう。しかも密室ものを得意とする推理作家が被害者で、その犯行現場もまた密室だった・・。クリスマスにふさわしい「プレゼント」や「サンタクロース」といったモチーフに彩られ、全編がどこかコミカルな赴きに包まれているこの作品は、まさにクリスマスに読むのにぴったり(?)の推理小説ではないでしょうか?
それ以上に面白いのは、パーティに集まった推理作家たちと、ゲストとして招かれた犯罪学者こと火村教授との間で交わされる熱い「犯罪談義」です。短編ではいつもクールなばかりで口数の少ない火村先生が、珍しくよくしゃべって自分の思想・哲学を披露してくれます。ファンにとっては嬉しいリップサービスですが、これは作者自身の思想の代弁でもあるので注目です。この小説でもう一人作者の代弁者となるのが推理作家の大御所・真壁聖一です。彼が作中で熱弁している推理小説の理想形・「天上の推理小説」とは、作者である有栖川有栖自身の目標でもあるからです。
主人公が推理作家や推理作家志望の学生であることで、常に「推理小説」にまつわる初心者向けの解説や、ミステリ好きのツボを教えてくれるのが有栖川作品のいいところだと思うのですが、この作品ではいつにも増して「推理小説とは何か?」といった根本的な問いに多くの紙数を割いている気がします。
また、この作品は作者があと書きでも述べているように、密室殺人そのものというよりも、「密室もの」にまつわる出来事をテーマとして扱った「メタ密室」「メタ推理小説」ともいうべき作品です。密室殺人のトリックや犯人当てはもちろんのこと、被害者である真壁聖一が書き終えることなくあの世へと去ってしまった「46番目の密室」という小説の内容も、また大きな「謎」として事件に絡み合ってくるのがその証拠です。
私が一番印象に残ったセリフは、「何千という推理小説を読み、何十という殺人現場を書いてきたから・・」という一節です。何気なく書かれたこの一文に、主人公=作者のミステリー・マニアとしての熱意と自信、そしてワクワク感が伝わってきますよね。まさにミステリー好きのためのミステリー小説という醍醐味がこの作品には詰まっていると思います。
他にもこの作品では珍しく、いつもは火村に推理をまかせっきりのアリスが自信たっぷりの自説に辿り着き、火村と推理の「答え合わせ」をしよう、とカードゲームに見立ててお互いの札を見せ合うなど、楽しい趣向に富んでいるのですが、立て続けに2連発でダブル密室殺人が起こるなど、駆り立てるようなプロットの運びも健在です。密室のトリック自体も、作者自身は「凡百の範疇に入るものだ」と書いているものの、私にとっては充分意表をついたアクロバティックなものだったので、存分に楽しめました。(ヒントはやっぱり「サンタクロース」でしょうか・・?)
事件の起こる別荘の名前が「星火荘」、登場人物の名前も聖一・光司・風子・石町・彩子・・そして「火」村と、風光明媚な自然にまつわるネーミングが多いところが、まさにホーリー・ナイトという感じに神秘的な雰囲気を演出していていいですね。この独特のネーミングが犯人当てのヒントになってるんじゃないか?という私の邪推は完全にはずれましたが・・。
風のまにまに号

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