東京少女

| コメント(0)

book_tokyogirl.jpgアメーバブックスから「電車男」に次ぐ2ちゃんねる発の大型ラブストーリー巨編「東京少女~ぼくとオタとお姫様の物語」の出版が決まったそうです。これまた結構売れそうな予感がするなぁ、ということで早速元ネタの方を読んでみました。出版予定の本の方はまだ予約受付中といった状態ですが、ネット文学の常として、その気になって探せばネット上で全ての文献に目を通すことも不可能ではありません。「クリスマスイブにデートの娘を買ったことがある」。そんな、ちょっとせつない告白から始まって、突如BBSにとつとつと書き連ねられる私小説風のストーリーの羅列には、リアルタイムで読んでいる者ならずとも、ぐいぐいと引き込まれてしまいます。文節は短く、ときに詩的で、読み進むうちにせつない純愛ストーリーから一転、危険な闇の社会の影が忍び寄ってくる下りは、まるで石田衣良の小説を彷彿させます。ネット上のオーディエンスを巻き込みながら、約2ヶ月に渡って2ちゃんねるという舞台で続けられた幻の「連載小説」。その存在そのものが、もはや都市伝説なんですよね・・。

<あらすじ> 主な登場人物は、主人公(ぼく)と、デートクラブで出会った美少女(姫様)、そして主人公の友人のひきこもり(オタ)の3人。一度きりの出会いだと思っていた姫様から「もう一度会えませんか?」というメールが来たことから、逢瀬を重ねることになる「ぼく」。無邪気な姫様との甘い時間を過ごすかたわら、彼女が持ち歩く謎のフロッピーディスクのことが気になった「ぼく」は、友人の「オタ」にメールで転送して分析を仰ぐ。薬物の名前らしきものを羅列したEXCELファイルに、インドの街の風景を写した画像ファイルが3枚・・。そこから次第に浮かび上がる巨大な闇を前に、「ぼく」と「オタ」は彼女を救うことができるのか・・?

もはやオタクを通り越して「情報屋」顔負けの活躍ぶりを見せるオタ!に個人的には一票入れたいところですが(※「オタ」の名前の由来というのも必見・・)、キャラクターやセリフ回しが凝っていてなかなか読ませる上に、絶妙な伏線がふとしたところで生きてくるので、短い文体にも関わらずストーリーが理解しやすいように工夫されています。そうは言っても、毎日2ちゃんねるに向かって断続的に投稿されたセンテンスは、その場その場で書き下ろされた、というのだからなかなかの筆力・筆量と言わざるを得ません。

また、「電車男」のときとは違って、今回は基本的にただの観客に過ぎない「スレの住人」たちの発言も、適度な臨場感を生み出すノイズという以上に、作者にとって必要不可欠な存在だったのだ、ということが本人の口からも語られています。彼は「このスレの住人に読んでもらいたいから書いてるんだ」「今ここで読んでくれる人がいれば(形に残らなくても)それでいい」と繰り返し書いています。

そんな状況だから、今回アメーバブックス編集者がこの本の出版に当たって、作者を探し出すためにネットで呼びかけたり、出版の了承を取りつけたりと、色々苦労されたそうです。そう考えると、この本の出版そのものが、一種の奇跡のような出来事にも感じられますが、2ちゃんねる掲載当時から「金を払ってでも続きを読みたい」という人が後を断たなかったのだから、まさに待望の書籍化といったところでしょう。

今やブログや掲示板が新たな作家誕生の登龍門になったんだなぁ、というのはもはや自明のこととして、重要なのはBBSでこれだけ多くの人の支持を集めるほどの作者が、本を出したり、自分の作品広く公表することには見向きもせず、「2ちゃんねる」という特殊かつ流動的なコミュニティを、発表の舞台として選んだということ。これでは、必死で作家を発掘し、面白い本を作ろうとしている出版界の立つ瀬がないのでは・・?

そんなわけで、文学や出版のあり方に色んな意味で一石を投じる作品であることは間違いなさそうです。だからこそ、作家になろうと思っている人や、出版関係者の人にはぜひ読んでみてもらいたい一冊、という感じがしますね。BBSのスレッドでは結局分からずじまいになってしまった、作者が文体のモデルとしている「敬愛する作家」が誰なのか?といった謎も、多読家の皆さんになら解いてもらえるかもしれませんしね・・。

「東京少女~ぼくとオタとお姫様の物語」七重俊
アメーバブックスのオフィシャルブログ「本と友達カフェ」

コメントする

このサイトについて

多摩川のほとりでのんびり暮らす3人家族の日常と果てなき好奇心を綴ったブログです。

最近のコメント

バックナンバー