今月発表された日銀の「量的緩和解除」の決定を受けて、早くも巷では銀行の預金金利が上昇するなど、景気回復局面へ向けたアグレッシブな動きを見せ始めています。ただ、金利が上がるということは、これから住居やマンションを買おうと思っている人にとっては、ローン金利がシビアに変動していくことを同時に意味するので、気が気ではありません。長いデフレ期間を終えて、私たちのお財布に直接影響を及ぼすようになった金融マーケットの動きを、どのようにウォッチしていけばいいのでしょうか?そんなときに役に立つのが、おなじみ藤巻さんの著書「実践・金融マーケット集中講義」です。前回紹介した「個人資産運用法」がインフレ対応時代へ向けた指南書といった内容だったのに対して、こちらの本は私たちの知らないところで日々動いている金融マーケットの世界(金利・債権・為替・先物・オプション市場...etc)を分かりやすく一から勉強することができる教科書的な一冊です。元々、若者向けに開催された講義の内容をそのまま収録しているので、終始平易な「話し言葉」で書かれているのも嬉しいポイントです。
先ほどのローン金利の話で言うと、通常私たちは毎月銀行から提示される金利を鵜呑みにするしかないのですが、それでは銀行の手の平で踊らされてる感が否めません。藤巻さんの解説によれば、住宅ローン等の長期金利は全て市場で売買される長期国債の金利に連動していて、その中でも日々最もエキサイティングに取引されている債権先物市場の価格に左右されるのだそうです。長期国債や債権先物の値動きは、実は毎日日経新聞などに載っているので、これらのデータを日々チェックすることで、私たち素人でも先々の金利が上がりそうか下がりそうか、大体の見通しが立てられるというのです。
参考までに長期国債(新発10年物)の利回り推移(デイリーの終値)を見てみると、量的緩和解除が発表された3/9を挟んでみるみると上昇しているのが分かります。1年7ヶ月ぶりの高水準と市場関係者が騒いでいるのもうなずけますね・・。

(日本相互証券ホームページより引用)
株のデイトレードをやっている人ならいざ知らず、普段何気なく目にしている新聞にそんな重要な情報が載っているとは思いも寄らないので、まさに目からウロコといった感じですよね。本書の中では、こうした実践で役立つ「日経新聞の読み方」の他にも、マーケットの中での日銀の役割や「量的緩和」の本当の意味合いなど、銀行のディーラーとしてその世界の内側にいた人にしか分からない感覚的な知識を色々と教えてくれます。特に、本書で解説されている「日銀のバランスシートの読み方」などを生かせば、私たちが今後の日銀や政府の政策の是非をウォッチしていくことができるので、非常に重要だと思います。
とはいえ、この本に書かれている、ディーラーや投資家たちが主導する金融マーケットの世界は、半分以上私の想像をはるかに超えて複雑怪奇で、まるで上質なSF小説を読んでいるかのごとく、その高度に発展されたシステムや概念に、いちいち舌を巻くばかりです。例えば「先物」というのは、未来のモノの価値を今決定して売り買いすること。1年後の1ドルを150円で買う、というところまでは何とか理解できるのですが、債権先物となると何と実際には存在しない「6%残存10年」という架空の債権を想定して取引してしまう、という完全にバーチャルな世界なんですね!
さらにオプションとは、ある商品をいくらで売り買いする権利を取引すること。スワップ市場とは、現金そのものではなく、お金を貸し借りする際の金利のみをバーチャルに取引してしまうマーケットなのだそうです。これらの多岐に渡る金融商品は、それ単体で存在意義があるのではなく、例えば為替の大口取引をする際に、先物やオプションを組み合わせて使うことで、未来の損失を限定する(ヘッジする)、といった具合に全ては利便性の追求のため進化・発展してきたシステムなのです。言い替えれば、人間の欲望のメカニズムを極限までシステム化してしまった世界と言えるのかもしれませんね・・。
そんな風に、およそ私たち個人が直接関わることのない金融マーケットの話ばかりですが、そこでやり取りされている結果が私たちの身の回りの金利や物価に影響しているのは紛れもない事実だと思います。雲の上の絵空事のように聞こえるかもしれませんが、ここまで一通りの知識を学んでおけば、テレビに登場するえせアナリストの発言に騙されることもないし、銀行のローン担当の人間とも互角に渡り合うことができるはず・・。藤巻さんが長年予見してきたインフレ突入時代を目前に控えた今こそ一読の価値がある一冊と言えるのではないでしょうか?
風のまにまに号

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