村上春樹の短編集「東京奇譚集」を読みました。最初の作品で珍しく村上春樹自身が登場し、「本当にあった話」として友人の体験談を語っているので、他の作品も含めて、全てが現実に近いレベルの話に感じられてしまう雰囲気があります。「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」と初っ端からかなり泣かせる作品が続くのですが、日常の中で突然大切なものを失くした人々を描いた「どこであれそれが見つかりそうな場所で」「品川猿」へと至って、ちょっと不可思議で可笑しいテイストに変じて幕を閉じています。中でも私が一番気に入ったのはハワイでサーファーの息子を失くした女性が主人公となる「ハナレイ・ベイ」。息子と決して仲が良かったといえない母親・サチは、失った時間を取り戻すかのように、毎年息子の亡くなった地を訪れ、いつしか旅の常連のようになります。そこで出会った向こう見ずな日本人青年との愉快なやり取りは、どこか「海辺のカフカ」のナカタさんと星野青年との関係を彷彿させるのですが、青年にはない知恵も経験も全て持ち合わせたサチが、唯一持っていないもの(=息子との絆)を彼の中に見出してしまうシーンには、思わずホロリとさせられました。全ての話が作り物と思えないだけに、「品川猿」がその後高尾の山で無事に暮らしているかどうかも、思わず気になってしまいますね・・。
風のまにまに号

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