伊坂幸太郎の「死神の精度」を読みました。クールな死神が人の姿を借りて、死の直前の7日間だけ、対象となる人物を調査にやってくるというストーリー。面白いのは、死神といえどもサラリーマンさながら、必要最低限の情報しか上層部から与えられておらず、いかに『仕事』をさぼって、CDショップで好きな音楽を聴くかということしか考えてないし、『上』は『上』でそんな適当な死神たちの判断を鵜呑みに、人の生死を決定してしまうということ・・。主人公の千葉は、死神の中でも比較的物好きで、熱心に調査をすることだけは怠りません。人間の社会のことをよく知らず、おかしな質問ばかり繰り出してしまう彼でしたが、取るに足らない人間たちの死に際に寄り添ううち、思いも寄らず様々なドラマに巻き込まれていきます。オムニバス形式で物語が語られるので、死神・千葉の目線を通して、様々なシチュエーションの7日間を目の当たりにすることになるのですが、いずれ劣らず映画仕立てのドラマチックな展開が待ち受けているのが、伊坂幸太郎らしいというか、好みが別れるところかもしれません。
不運な身の上を嘆き、はなから死を受け入れている者。他人のために身ら命を投げ出す者・・等々。どんなシリアスな場面でも、人間の死を当たり前のことと捉え、人間社会を物珍しく観察する死神の視点を通して見ると、とたんにユーモラスな笑いに包まれてしまうから不思議です。
私が個人的に気に入ったのは、とある人物の死を見届けるため『吹雪の山荘』を訪れた死神が、不可解な連続殺人事件に巻き込まれてしまうという「吹雪に死神」。推理小説でおなじみのシチュエーションに、もし死神が紛れていたらどうなるか?という着想の元に遊び心を発展させた、いわゆるメタ推理小説なのですが、それ自体立派な推理小説として成り立っているからさすがです。
その他にも、物語中には読者をあっと言わせる伏線やトリックが、巧みに張り巡らされているので、最後まで読み終えると、不思議な読後感に襲われること請け合いです。それにしても、人間にはまるで興味がないくせに、人間の作った音楽にはやたら夢中になる死神たち・・。彼らの不思議な特性には、滑稽な笑いとともに、どこか空恐ろしいものを感じずにはいられません。
「人間が作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、もっとも醜いのは渋滞だ」彼らによると、音楽に比べれば、人間の作り出した政治も経済もまるで意味がないらしい。どこか真を得ているような気がしてならないセリフですが、本当に彼らのいう通りの未来にならないよう、自問自答せずにはいられませんね・・。ともあれ、映画以上に映画らしい演出に溢れたこの作品、一体どんな風に映画化されるのか今から楽しみですね。
「人間は不思議なことに、金に執着する。音楽のほうが貴重であるにもかかわらず、金のためであれば、大抵のことはやってのける」
<関連サイト>
・映画「Sweet Rain 死神の精度」オフィシャルサイト
風のまにまに号

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