女王国の城

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女王国の城有栖川有栖の江神シリーズ待望の最新作「女王国の城」を読みました。前作の「双頭の悪魔」から数えるとざっと15年ぶりの新作ということになるので、当時からのファンにとっては、まさに悠久の時を経た感があるのではないでしょうか?私にとっては前作を読んでから、たかだか4年ほどしか経ってないのに、今だ新作の刊行が幻のようで信じられないところがあるのだから、皆がどれだけ首を長くして待っていたかが窺い知れるというものです。あれから時代は遠く流れ21世紀に突入してしまったのに、作品の中のアリスや江神さんたちは80年代(~90年代初頭)を生きる学生時代のまま・・。その変わらぬ懐かしさが嬉しいようでいて、今の私たちに新鮮な驚きとミステリーを与えられるのかという不安は、一読者として感じずにはいられません。ところが、このずっしりとした新作を一度紐解くや、瞬く間に生き生きした青春活劇の世界に引き込まれてしまうし、バブル景気や新興宗教に浮き足立った、私たちのよく知る90年代の空気が蘇ってきます。作中で、アメリカに誕生したばかりのインターネットに言及していたり、「一人一人が携帯できる電話があればいいのに」というマリアのセリフなどが面白く、一種パロディ的に現代のパースペクティブから90年代当時を俯瞰して描いていることがよく分かります。

そういう意味では、古きよき青春小説の体裁を保ちながらも、あくまで現代の目線から描き直したメタ・青春ミステリとも言えるわけで、古くからのファンも、新しい読者も、安心して楽しめる新生・江神シリーズと言ってよいのではないでしょうか?今作では、行方をくらませてしまった江神先輩を追って、推理小説研究会(EMC)の面々が急成長中の新興団体「人類協会」の本拠地を訪ねるところからストーリーが始まります。深い山間のふもとで、UFOのメッカとして知られる『神倉』というその町の名も、かつてTVのワイドショーを賑わした某宗教団体の本拠地を、どこか彷彿させませんか・・?

財テクで富を築き、弱冠21歳の『女王』を代表として仰ぐという人類協会の、SFチックな外観を持つ施設(城)で、無事江神さんと再会を果たすアリスたち。ところが、ここでまたしても不可解な殺人事件に遭遇してしまい、さらに特殊な状況下が重なり、外部から孤立してしまうことに・・。宇宙からの来訪者ペリパリとの再会を待望する彼らの『聖洞』の眼前で起きた殺人は、誰の手によるものなのか?そして、監視カメラのテープが持ち去られたのはなぜなのか・・?

度重なる連続殺人に挑む江神さんの推理のプロセスも去ることながら、『城』に閉じ込められた状況を打破しようとするEMCメンバー一人一人の活躍が、前作よりもよりドラマチックに描かれていて、冒険活劇としての醍醐味が満載です。この点、ストーリーに没入してしまうと、置き去りになった謎のヒントを忘れてしまいがちになる、という欠点があるのですが、それもまたご愛嬌・・。めくるめく物語の進行を楽しみながらも、来るべき『読者への挑戦状』に備えて、自分なりの推理を楽しみましょう。

肝心の謎解きの方は、さすがに「双頭の悪魔」のように読者への挑戦状×3段構え+電光石火の解決、とはならないので、物足りなさを感じる人もいるかと思うのですが、着実なロジックの積み重ねの末に、たった一本の道筋に至る絶妙なプロットの運びは健在で、この15年間にマニアックな火村シリーズの作品を数多く手掛けた成果が、確実に生きている気がします。

「ええか、アリス。今の推理は、銃声が偽者だったと仮定した上に立った砂の城や。時限式の爆竹なるものが使われたことを立証せんことには、まるで説得力がない。人は、自分の閃きには恥ずかしげもなく甘くなれる。ここは注意がいるところやぞ。」
こんなことを言う江神さんのセリフを読むと、一瞬火村助教授が乗り移った?と錯覚してしまうのですが、一個一個確かなものだけを積み重ねていく丹念な推理スタイルは、じっくり読み込むほどに深い味わいを生んでくれるのです。今回の事件では特に、明確なアリバイを持つ者もいなければ、動機のはっきりした人物も見当たらない、という五里夢中の状況なのに、『ある事実』に着目することで、江神さんは見事に犯人を特定してしまいます。関係者全員が一堂に会する前で繰り広げられる推理ショーも迫力満点だし、驚くべきこの事件の犯人像も、極めて90年代的犯罪というか、空白の15年間を総括してくれる、代表作と呼ぶにふさわしいものと言えるでしょう。

今回の語り手は、アリスの一人称がメインになってはいるものの、要所要所でマリアの一人称とも交替するスタイルを採っていて、「双頭の悪魔」のように別行動してないときでも、お互いの心の内が分かったりして楽しめます。進展しそうで、なかなか進展しないアリスとマリアの恋(?)の行く末や、謎に包まれた江神さんの過去の秘密にも、今回新たな展開があったりするので、過去シリーズからのファンにとっては見逃せません。著者によれば、江神シリーズはこの後長編1作+短編2作ぐらいで完結するらしいので、さらに首を長くして続編を待ちたいと思いますが、それにしても自分の死期を予言されている江神さんって、まるでハリー・ポッターみたいな人だなぁ・・。

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