傷つきやすくなった世界で

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傷つきやすくなった世界で「空は、今日も、青いか?」に引き続き、フリーペーパー「R25」での連載をまとめた石田衣良のエッセー集・第2弾。20代の新社会人へ向けたフレッシュな視点は相変わらずに、その時々の世相を映した多彩なテーマを扱っているのですが、本書では多数の書き下ろしを含め、テーマごとに章立てされて再構成されているので、連載をときどき読んでいた私でも、著者が似たようなことを繰り返し主張しているのに気づかされたりと、新たな発見があって興味深かったです。特に面白かったのが、「植物化する男たち」をめぐる論考。最近の若い男性が恋愛やセックスに消極的になっているという声が、複数の女性から寄せられたのをきっかけに、そんな「植物化する男たち」の実態を著者なりに分析してみたかと思えば、残業ばかりで疲れ切っている日本のサラリーマンの現状と絡めて、「残業禁止法」なんてものを制定してしまえば、日本の男性ももっと夜の街に繰り出し、恋に積極的になるのでは・・?という画期的な提言につなげてしまうからさすがです。恋愛や子育て、仕事とやりがい、非正規雇用や貧困の問題など、扱うテーマは様々ですが、『もっと軽やかに柔らかさを持って生きていこう』という著者の一貫したメッセージには、さわやかに考えさせられる、そんな一冊でした。

タイトルの「傷つきやすくなった世界」とは、格差や競争に追われて余裕のなくなった現代日本の姿そのものを現した言葉です。ささいな罪や失敗を犯した芸能人やスポーツ選手を容赦なくバッシングしたり、勝ち組負け組みと簡単に他人にレッテルを貼ってしまう・・。その一方で、ちょっと上司に怒鳴られただけで会社に来られなくなってしまうほど、若い人たちの「心のタフさ」もなくなっていて、白か黒かでしか答えを出せない追い詰められた状況は、確かに「傷つきやすく」なったと言えるかもしれません。

この傾向はインターネットに依存した現代の風潮にも現れていて、キーワードを入力するだけで瞬時に解答を導いてくれる検索エンジンの威力は目覚しいものがありますが、人々がお手軽な答えにばかり飛びついてしまい、迷ったり、まわり道したりする心の余裕を失っていると著者は指摘しています。人生で本当に大切なことは、そんな無駄な部分にこそ潜んでいるのだから、もっとじっくり腰を据えて、無駄を楽しもうというのです。

著者のすごいところは、有言実行というか、そんな提言を身を持って実践しているところ・・。堤監督と藤井フミヤとの共同作業で実現したドラマ「下北サンデーズ」のプロジェクト、てっきり原作が先にあったのか、テレビ局側から持ち上がった企画だとばかり思っていたのですが、なんと偶然下北に3人が集まったときに「こんなのやってみよう」と言ってはじまった自主企画だったのだとか!片や、仕事とやりがいのバランスは、誰もがギリギリのせめぎ合いの中で模索するしかない、と書いておきながら、自身はそんな『大人の真剣な遊び』をやってのけているのだから、軽やかとしかいいようがありません。

そんな作品誕生の裏話も含めて、人気作家の自然な横顔を垣間見ることができるのも本書の魅力の一つ。私が一番お気に入りなのは、著者が偶然乗り合わせたハイヤーで、石田衣良の作品は全部読んだことがあるという読書家の運転手と出会う「ハイヤーの趣味人」というエッセーです。待ち時間が多く暇を持て余すため、運転手仲間で熱心に本の回し読みをしているそうなのですが、そんな中でダントツの人気を誇るのが石田衣良の作品なのだとか・・。そんな人気の秘訣も去ることながら、全く違う世界で暮らす2人が、好きな小説の話で花を咲かせる場面は、世の中の憂慮を忘れ、微笑ましいものを感じさせてくれるのでした。

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