スタジオジブリの最新作「借りぐらしのアリエッティ」を観てきました。自然に囲まれた閑静な屋敷にひっそりと住み着いた小人の一家。人間から見るとこじんまりとした住まいですが、小さなアリエッティから見ると、庭は危険な生き物たちが住む広大なジャングル、屋敷の中は様々な仕掛けが巡らされた巨大な迷路になってしまうから不思議です。そんな魅惑に満ちた空間をアリエッティと一緒に冒険していると、まるで天空の城を旅しているようにドキドキしている自分に気がつくことでしょう。普段見慣れた光景も、ちょっと視点を変えると冒険の舞台に早変わりしてしまう、というのがこの作品のコンセプトです。「崖の上のポニョ」では半径3キロ以内で全ての出来事が起こっていましたが、「アリエッティ」ではさらに狭い、家一軒分のミクロな世界の中で全てが描かれているのです。
アリエッティたち小人は、自分たちのことを「借りぐらし」と称し、人間の家から必要な物を気づかれないようにちょっとずつ借りて生計を立てています。「借りる」というと気軽なイメージですが、アリエッティがお父さんと武装して探検家のような格好で出かける「借り」は、まるで「狩り」そのもの・・。まさに彼らにとっては生きるか死ぬかの命がけのサバイバルなのです。
お父さんが日頃の「借り」のために準備した隠し通路や、「借り」に欠かせない七つ道具には、安全ピンやホッチキスの芯、両面テープ..etc. といった身の回りの物が使われているのも見逃せないポイント・・。原作である「床下の小人たち」自体は○年代にイギリスで書かれた作品ですが、この映画では舞台が現代の日本に置き換えられているので、私たちにも身近な現代風の小道具の中で、元気に走り回るアリエッティの姿を楽しむことができます。
決して人間に姿を見られてはいけない「借りぐらし」たちですが、アリエッティはふとしたはずみで屋敷に療養に来ていた少年・翔に姿を見られてしまいます。母親から小人たちの言い伝えを聞かされていた翔は、アリエッティたちに興味津々で交流を図ろうとするのですが、家政婦のハルさんまでが小人の存在を嗅ぎつけ出したから、さあ大変・・。一家の最大の危機に直面したアリエッティが、翔と協力してたった2人で困難に立ち向かうシーンが、この映画の最大の見せ場と言えるでしょう。
小さなアリエッティが人間の世界で動き回るには、とてつもないハンディがありますが、それは12歳の子供である翔にとっても同じこと。一人だけで守り通すには、あまりに重過ぎる秘密を背負ってしまったのです。ましてや、心臓に病気を抱えた翔は、自由に走ったり運動したりできない体です。そんなハンディを抱えた者どうしの2人が、果たして迫り来るピンチを乗り越えることができるのでしょうか・・?
アリエッティと翔の共通点はそれだけではありません。「滅びゆく種族」である自らの血統を存続させるために、たった一人でも生き延びないとならないアリエッティの境遇は、両親に見放され、一人危険な手術に立ち向かわなくてはならない翔の置かれた状況とよく似ています。そんな2人が束の間の出会いの中で静かに心を通わせるシーンは、観ていて胸を熱くさせるものがありました。
その辺は、志田未来の演技力の賜物もあって真に迫るものがあったのかもしれませんが、それだけではなく、全編に流れるセシル・コルベルのケルト風の音楽や、全体的に淡々としていてドライな語り口が、作品に小気味いい余韻を産んでいたと思います。いずれにしたも今回、米林宏昌監督にバトンタッチしたことで、いい意味で宮崎駿作品とは一風違った作風に仕上がっていることは間違いありません。ぜひ皆さんもフレッシュな気持ちで新生ジブリワールドを楽しんでみてはいかがでしょう。
風のまにまに号

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