昨年末になりますが、堀北真希主演の舞台「ジャンヌ・ダルク」を観に行ってきました。ジャンヌ・ダルクの演劇を観るのは2007年に松たか子が主演した「ひばり」を含めると2回目になりますが、やはり私の場合、ストーリーや歴史背景を熟知しているだけあって、役者がどんな風なジャンヌ・ダルク像を演じるのか、演出家や監督がどんな解釈を加えるのか、といったところに焦点が置かれます。堀北真希は、何気に「ケータイ刑事」の頃から応援しているのですが、松たか子のように強いキャラクター性を持った女優さんではなく、どこか『お人形さん』のような印象があるだけに、強いジャンヌ・ダルク像を演じられるのか、ちょっぴり不安がありました。ところが、いざ舞台が始まってみると、凛とした眼差しで客席を見つめる彼女の佇まいは、実に堂々とした存在感があり、松たか子とはまた違った意味で「奇跡の少女」を見事に演じきっていました。
簡素で前衛的な演出が貫かれていた蜷川幸雄版のジャンヌ・ダルク「ひばり」とは対照的に、今回の舞台では鎧甲冑に身を包んだ軍勢によるダイナミックな戦闘シーンを始めとして、全体的に派手な演出と分かりやすいエピソードの運びで、いわゆる正統派のジャンヌ・ダルク絵巻が繰り広げられていたと思います。舞台の中央には大きな穴が一つ空けられていて、そこから人が出たり入ったり・・。戦闘シーンでの奥行きを出すのに使われたり、この穴が様々なシーンで活用されているのですが、こういった「暗がり」の使い方と、派手で華々しい演出とのコントラストが、全体として『光と影』といったテーマを感じさせる舞台構成になっていました。
肝心のジャンヌ・ダルク像に関してですが、私が元々堀北真希に抱いていた印象は、前述の通り「お人形さんのような」といったイメージで、これは別に悪い意味で言っているのではなく、昨今ドコモのイメージキャラクターとして巷の広告やCMに登場している彼女の姿が、まるでリンピッカの肖像みたいだ、と思った所に端を発しています。


高層ビルや自動車といった当時の最先端技術の産物を背景に描かれた、リンピッカの肖像画に登場する少女は、まさにアール・デコ時代の最新テクノロジーの象徴です。堀北真希が広告塔を務めている「携帯電話」も、時代は違えども、最先端の技術分野に違いありません。つまり、堀北真希の持つフェミニンで中性的な顔立ちと存在感は、時代の『イコン』として選ばれるにふさわしい素質を持っているのではないかと思うのです。
『イコン』としての役割を演じるのであれば、それは無個性であれば無個性なほど相応しい・・。それこそが、今の時代のニーズにマッチした彼女の魅力だと思っていたのですが、さて今回の舞台での彼女はどうだったでしょう・・。無機質な鎧にぴったりと身を包んだ堀北真希の姿は、「お人形」を通り越して、まるで近未来SFに登場する『アンドロイド』みたいではありませんか!?
そんな風に、ビジュアルや立ち居振る舞いからして「奇跡の少女」を体現している彼女が演じるのですから、その演技は一生懸命で一途なほど効果を発揮します。松たか子のように、ユニークな個性と演技力でもって、独創的なジャンヌ・ダルク像を作り上げるやり方とは違いますが、まっすぐで正攻法の演技で演じているからこそ、周りの登場人物たちが、奇跡の少女として「信じよう」と積極的に参加せざるを得ないので、劇全体に一体感が醸し出されてくるのです。
まっすぐに神の声(=自分)だけを信じていた「奇跡の少女」が、最後に普通の少女としての幸せを手に入れられるチャンスを得るとしたら・・。こういったラストシーンへの運び自体が、まるで監督が堀北真希のために書き上げた脚本のように、私には感じられました。凛とした強さに加えて、弱さと儚さを併せ持った堀北真希だからこそ、俗人としてのジャンヌの葛藤を描いた本作のストーリーが際立っているのではないでしょうか?
シャルル役を演じた伊藤英明も、キャラクター的に悪にもなり切れず、馬鹿にもなり切れない難しい役どころを、深みのある演技でうまく表現していたと思います。それにも増して味があったのが、ジャンヌの従者役を演じた2人の演技・・。従者の一人レイモンは、金のために女王にスパイ役として雇われた俗物中の俗物ですが、善悪併せ持ったその俗人ぶりが、親しみやすい感情移入を誘い、観客を物語の根幹へと導く案内人の役をも果たしています。レイモンは、信じてもいない『奇跡』を、政治の道具として民衆に信じさせるため、奇跡を演出する裏方として、裏であれこれと策を弄するのですが、そうこうしているうちに、仕掛人であるはずのレイモンが、ジャンヌのペースにすっかり巻き込まれてしまうのです。
その他、自分の金や権力を守ることしか頭にない大臣や、敵である英国軍、宗教界の大御所・コーソン司教など、様々な登場人物たちがジャンヌを利用しようと陰謀を巡らせますが、彼らは『奇跡』が本物かどうかなど興味がありません。本物であろうとなかろうと、民衆に影響力を持つ『イコン』(=スター、アイドル)であれば、何でもいいのです。自分の都合のためにジャンヌを利用しようとする大人たち、ひたすら純真に信念を貫き通す乙女ジャンヌ・・。こういった図式の中で、滑稽なまでに『奇跡』とは何かを問うたのが、本作品の最大のテーマだったのではないでしょうか?

さて、堀北真希主演の舞台「ジャンヌ・ダルク」は、2月27日にはCS・TBSチャンネルで放送、そして5月にはDVDの発売も決定したそうです。ぜひ、皆さんも現代の『イコン』としてのジャンヌ・ダルクを演じた彼女の姿を、スクリーンで鑑賞してみてはいかがでしょう?この作品も、実際の史実やジャンヌ・ダルク自身の裁判記録などに忠実に乗っ取って作られているので、一度ジャンヌ・ダルク関連の書籍に目を通してから観ると、より一層楽しめること請け合いです。
風のまにまに号

堀北真希が抜擢された理由って
イケメンパラダイスで男に扮した女の子を
演じたからかなぁ。なんて思います。